から揚げ|「わたしの味」

回復したい気持ちから、回復していると気づくフェーズに、最近の私は、ようやく入ったように思います。
あれほど「普通」に戻ることを追い求め、体力も気力も不足した状態から、私はどのように回復してきたのだろう。そんなことを、静かに振り返ってみたのです。
起き上がれない日々。めまいに包まれる朝。携帯もパソコンも、光が強すぎて、まともに見ることができませんでした。病状や小さな変化をノートに書き、紙の本を読み、とにかく、よく眠る日々。
初めて、左耳から風の音が聞こえたとき。あの瞬間、自然と涙がこぼれたことを、今も覚えています。
それに比べれば、今の私は、もう健康そのものです。それなのに——あの頃の方が、感謝に満ちた心で生きていた気がする。私はいつ、「正常な感覚」を少し行き過ぎてしまったのだろう。
年末は、そんな思いで、心が迷子になっていました。
人は願っても、すでに夢が叶っていることに、気づかないまま過ごしてしまうことがあります。
回復した私が、できるようになったこと。それは、振り返ること。そして、「私はもう治っている」と、自分自身に気づかせてあげることでした。
そのために、私の場合、いちばん効果があったエクササイズは「内観」でした。やはり、1か月ほどはかかる。そう実感しています。
上手になりたい料理のひとつに、から揚げがあります。
これまで、若い頃からいろいろなレシピに挑戦してきました。最近は、塩麹や酒粕、醤(ひしお)を使ったから揚げで、ようやく落ち着いていたところでした。
そんな中、栗原はるみさんの「わたしの味」にも、から揚げがあったので、作ってみることにしました。
すると——「このレシピで、十分」。そう思える、おいしさだったのです。
例えるなら、居酒屋でいただく、お店のから揚げの味。今回は私のアレンジで、揚げずにオイルをかけ、魚焼きグリルで焼き上げました。
塩麹も酒粕も使わず、一晩の漬け込みもなし。(1時間ほどは置きましたけれど)
それでも、外はカリッと、中はふわふわでジューシー。驚くほど、柔らかいお肉になりました。
すごく簡単。いままで手と時間をかけて作ってきたからこそ、この簡単さは少し切なくもなります。
いろいろと挑戦してきたからわかる、このおいしさ。遠回りした時間は、ちゃんと、価値のわかる私になるために必要だったのだと思えます。
今の私に、ちょうどよく寄り添ってくれる献立でした。